喀痰吸引で使用する吸引器と物品、口腔内・鼻腔内喀痰吸引の実施内容と手順
実務者研修の医療的ケアで実施される口腔内・鼻腔内喀痰吸引の実技講習に関しての実施内容と手順や注意点について実技演習動画も含めて詳しく解説しています。
目次 |
痰吸引で使用する吸引器の種類、必要な物品について
痰吸引器の種類と喀痰吸引に使用する主な物品について紹介しています。
1. 痰吸引器の種類
痰吸引器の種類には、主に次のような種類があります。
- 卓上型痰吸引器:
在宅で使用する際に、台やテーブルの上に据え置いて使用するタイプの小型卓上型痰吸引器 - 携帯型痰吸引器:
外出する場合でも容易に持ち出せるタイプの携帯型痰吸引器
写真引用元:
新鋭工業株式会社 小型吸引器ミニックシリーズ
http://www.shinei.me/suction/pdf/minic.pdf
新鋭工業株式会社 小型吸引器ミニックシリーズ
http://www.shinei.me/suction/pdf/minic.pdf
2. 喀痰吸引を行うために必要な主物品
- 痰吸引器
- 吸引カテーテル
- 精製水や滅菌水
- 吸引カテーテル保存容器
(滅菌のため煮沸可能なものが必要ですが、使い捨て吸引カテーテルを使用する場合は容器は不要です。) - アルコール綿
- 使い捨て用手袋
- 速乾式擦式手指消毒剤
- 洗面器・うがい受け
- タオル
- パルスオキシメーター
(血液中の酸素濃度(動脈血酸素飽和度)を計測できる医療機器で、酸素療法を実施している場合は必要になります。)
口腔内喀痰吸引の実施内容と手順
医療的ケアの実技演習で受講する口腔内喀痰吸引の実施手順の解説と演習動画を紹介しますので参考にして下さい。
ちなみに、喀痰とは咳をした際に喉のほうから分泌される粘液状のものをいいます。
1. 口腔内喀痰吸引前の準備作業と観察・確認事項
医師の指示等の確認
指示書に記載されている次の内容をしっかりと確認しておきます。
- 吸引圧
- 吸引時間
- 吸引の深さ
- 留意点等
状態確認を行う
利用者に痰吸引を行う前に次の項目を確認し、異常があれば医師や看護師に早急に報告する必要があります。
- 顔色(表情)
- 痰がらみの音がないか
- 痰が溜まっている箇所
- 鼻腔内や口腔内に出血・傷がないか
- 体温が通常の平熱よりも高くなっていないか、高熱がないか
- 血圧が平常時より低下していないか
- 吐き気・腹痛・下痢などの症状はないか
- 動脈血酸素飽和度の値が平常時と比べて低くないか
(酸素療法を行なっている場合は、パルスオキシメーターで計測します。)
器材・備品の確認
次の備品があるかを確認します。
- 吸引チューブ
- 水
- 綿花
器材の動作確認を行います。
- 吸引器の電源をONにし、正しく作動しているかを確認します。
- 医師が指示した圧力値に設定されているかを吸引ホースを折り曲げて確認し、設定値が違う場合は、医師または看護師に報告し、支持の基で調整します。
- 次のような条件を満たせる場所に吸引器は設置されているので、介護職は自分勝手な判断で設置場所を移動したり設置し直したりしないようにしましょう。
- 水平を保つことができ安定している
- 電源が近くにあり、使用しやすい
- 高温多湿でない環境
- 水やホコリがかかることがない
- 利用者の頭の周辺
感染防止のために服装を整える
手洗いを行うと共に、防護具を装着・装備し、感染防止のために標準予防策を施します。
利用者への吸引開始の説明
今から痰吸引を行なうことを利用者や家族に伝えます。
痰吸引を受けやすい姿勢に整える
- 頭部を床に対して45~60度に保つのが理想の体位ですが、痰吸引に支障がなければ、利用者が要望する体位に調整してもOKです。
- また、利用者の着衣が汚れないよう胸から首周りにタオルなどをかけておきましょう。
- 吸引を行う際は、声かけを行い、嘔吐反射や顔色が悪い場合は無理せず一旦休憩してから再開しましょう。
2. 口腔内喀痰吸引の実施内容と手順
痰吸引開始
- 手袋の装着
利き手で手袋を取り非利き手にハメる。
非利き手で手袋を取り利き手にハメる。(※利き手は何も触わらず不潔にしないこと。) - チューブの準備
非利き手で連結管(吸引器のホース)を持つ。
利き手でチューブ(吸引カテーテル)を取り上げ、連結管(吸引器のホース)と接続する。
(※吸引カテーテルの先端は絶対周囲の物に接触しないよう注意が必要。) - アルコール綿を使用し、吸引カテーテルの根元から先端まで拭き取ります。
- 利き手の指で吸引カテーテルの先端から10㎝程度の部分を摘み、非利き手親指でカテーテルの根元を押し曲げながら持ちます。
- カテーテルを持ったまま非利き手で吸引器の電源スイッチをONにします。
- 利き手で持ったカテーテルの先端部分を容器に入った滅菌水又は精製氷に漬け、非利き手親指を緩めて少量を吸引させながら医師から指示された吸引圧と合っているかを確認します。
- 非利き手親指でカテーテルの根元を押し曲げ吸引圧がかからないようにし、容器に入れたカテーテル先端の水をよく切って引き上げます。
口腔内吸引
- 利用者に開始の声掛けをしながら、カテーテルの根元は非利き手の親指で押し曲げたままの状態で、利き手で持ったカテーテルの先端を□角から挿入し、痰等の貯留物が溜まっている付近まで入れていきます。
- 口蓋垂(通称:のどちんこ)付近をあまり刺激すると、嘔吐反射が起こりやすくなります。
- 利き手はカテーテルの先端から約10㎝くらいの部分を鉛筆を持つようにするとチューブを操作しやすくなります。
- 痰などが溜まっている部分までカテーテルの先端が挿入できたら、吸引圧がかかるようにする為、非利き手の親指を放し、1個所に圧がかからないよう利き手で鉛筆を持つようにした親指と人差し指でチューブをゆっくり回しながら貯留物を吸引します。
この時の吸引時間の目安は10~15秒くらいですが、医師から指示された吸引時間と挿入の深さは守りましょう。
- 吸引が終了したら清浄綿等でカテーテルの外側を拭きとり、チューブ内側は清浄水を通して汚れを落とします。
- 非利き手で電源をOFFにし、カテーテル(吸引チューブ)を吸引器のチューブから外し保管容器に戻します。
カテーテルを適切に保管する場合は、消毒液に浸し器具を完全消毒する方法などがあります。
- 手袋(セッシをもどす)をはずし廃棄します。
吸引実施後の確認
- 実施後の声掛けと姿勢を整える
- 吸引後の観察
- 吸引物の量・性状
- 顔色・呼吸の状態
- 全身状態
などの異常の有無
報告・片付け・記録
- 手洗いをする
- 実施後の報告
- 観察項目
- ヒヤリハット・アクシデント内容
- 使用物品の後片付け
- 吸引の状況を記録
3. 口腔内喀痰吸引 実技演習動画(介護職員等医療的ケア研修)
実技演習の手順説明動画
実技の模擬演習動画
鼻腔内喀痰吸引の実施手順と注意点
医療的ケアの実技演習で受講する鼻腔内喀痰吸引の実施手順の解説と演習動画を紹介しますので参考にして下さい。
1. 鼻腔内喀痰吸引前の準備作業と観察・確認事項
ここでの実施手順は、『1. 口腔内喀痰吸引前の準備作業と観察・確認事項』と同じですので内容を確認して下さい。
医師の指示等の確認
状態確認を行う
器材・備品の確認
感染防止のために服装を整える
利用者への吸引開始の説明
痰吸引を受けやすい姿勢に整える
2. 鼻腔内喀痰吸引の実施内容と手順
吸引開始
- 吸引テーテル(チューブ)を取り出し吸引器のチューブと接続します。
但し、吸引カテーテル(チューブ)の先端は周囲の物と絶対に触れないよう注意が必要です。
- 清浄綿などで、吸引カテーテルの根元から先端まで拭き取ります。
- 利き手の指で吸引カテーテルの先端から10㎝程度の部分を摘み、非利き手親指でカテーテルの根元を押し曲げながら持ちます。
- カテーテルを持ったまま非利き手で吸引器の電源スイッチをONにします。
- 利き手で持ったカテーテルの先端部分を容器に入った滅菌水又は精製氷に漬け、非利き手親指を緩めて少量を吸引させながら医師から指示された吸引圧と合致しているかを確認します。
- 非利き手親指でカテーテルの根元を押し曲げ吸引圧がかからないようにし、容器に入れたカテーテル先端を引き上げます。
この時、吸引チューブに水が残っていると水滴が鼻腔内に入るので、水をよく切って引き上げます。
鼻腔内吸引
- 利用者に開始の声掛けをしながら、カテーテルの根元は非利き手の親指で押し曲げたままの状態で、利き手で持ったカテーテルの先端を鼻腔のカーブに沿ってゆっくりと挿入し、咽頭手前まで挿入します。
- 鼻腔入り口は、粘膜が弱く毛細血管を傷つけやすいので十分注意が必要です。
- 利き手はカテーテルの先端から約10㎝くらいの部分を鉛筆を持つようにするとチューブを操作しやすくなります。
- 痰などが溜まっている部分までカテーテルの先端が挿入できたら、非利き手の親指を放して吸引圧をかけ、1個所に圧がかからないよう注意しながら、利き手の親指と人差し指で鉛筆を持つようにチューブをゆっくり回しながら貯留物を吸引します。
この時、医師から指示された吸引時間と吸引挿入の深さは守りましょう。
- 吸引が終了したら静かに吸引チューブを抜きます。
- 清浄綿等で吸引チューブの外側を拭きとり、滅菌精製水をチューブの内側に通して汚れを落とします。
- 非利き手で電源をOFFにし、吸引カテーテル(チューブ)を吸引器のチューブから外し保管容器に戻します。
カテーテルを適切に保管する場合は、消毒液に浸し器具を完全消毒する方法などがあります。
- 手袋(セッシをもどす)をはずし廃棄します。
吸引実施後の確認
- 実施後の声掛けと姿勢を整える
- 吸引後の観察
- 吸引物の量・性状
- 顔色・呼吸の状態
- 全身状態
- 鼻腔からの出血 などの異常の有無
報告・片付け・記録
- 手洗いをする
- 実施後の報告
- 観察項目
- ヒヤリハット・アクシデント内容
- 使用物品の後片付け
- 吸引の状況を記録